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僕は一番最初に男達と出会った路地裏に向かって歩いた。
ゆっくりゆっくりと。
軽くめまいがする。
久しぶりに血をあんなに浴びた。
僕は指折り数えた。
ざっと30年くらいか。
僕はふと、制服のポケットに手を突っ込んだ。
ポケットというよりも、水の溜まった袋に。
携帯が防水でよかった。
僕はびしょびしょになった青い携帯を取り出して開いた。
びしょびしょの僕、びしょびしょの携帯。
僕は7桁の暗証番号を慣れた手つきで打ち込んで、アドレス帳を開いた。
雨のせいで画面が曇った。
ぼんやりとした光が、ぼんやりと僕の顔を照らした。
体が雨のせいですごい重たい。
歩く度に、衣服が吸収した水の多さに驚く。
僕は名前が未記入の電話番号に、かけた。
4コールで相手は電話に応じた。
ブツと耳に響くような音が鳴り、テレビのような音が聞こえた。
そして15秒くらいそれが続き、次に男の声がした。
『もしもし?』
「もしもし。今大丈夫ですか?」
僕は携帯を左耳に当てながら言った。
携帯は、少し暖かかった。
「構わないが……」
男は、渋々というような感じで答えた。
「ありがとうございます」
『どうしたんだ?』
男が前置きはいい、と言う感じで本題を求めた。
僕は小さくため息をついた。
「力が戻りましたよ」
僕は言った。
『…………本当か?』
男は信じられない、という感じで質問してきた。
「本当です。視力も聴力も嗅覚も、身体能力も、戻りました。完璧です」
僕は先ほど殺した2人の男の所に来ていた。
ナイフが、柄の部分まで後頭部に突き刺さっている。
我ながら恐ろしい威力だ。
あの距離からナイフを投げて、ここまで深々と刺さっているとは。
『証拠は?』
男が聞いた。
「人を5人殺めました」
『それなら子供にだって出来る』
男は即座に言い返した。
「僕が戻ったと言っているんですから、戻ったんですよ」
僕は不機嫌そうに言った。
こういう頑固な性格は大嫌いだ。
人間じみている。
『信じられない。私にはまだその兆候は出ない』
男が言った。
「個人差ですよ、そんなの。それこそなんも証拠がないじゃないですか」
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