PROLOGUE【BLOOD】

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男はしばらく黙り込んだ。 なにを考えているのかだいたい見当はつく。 一番になりたいだけだ。 『君が一番早いわけだ』 「ですね」 『…………』 「いちいち黙るのやめましょうよ」 僕は言った。 実際不愉快だった。 今月の無料通話料はもうないんだ。 『と言うことは君が一任者か』 「そういうことになりますね」 僕は殺した2人の男の元に屈んで、ナイフを引き抜いた。 そしてそれを制服のポケットに突っ込んだ。 『私がなるはずだった』 「残念です」 僕は比較的血が付いていない方の上着を男から脱がした。 青いアディダスのジャージだ。 僕はすでにびしょびしょのそれを、更にびしょびしょで血だらけのワイシャツの上に羽織って、チャックを上まで上げた。 『君にできるのかね?』 「不安はないですよ。精一杯やります」 僕は間を空けずに言った。 『私は信用できない』 「あなたの信用は必要ありません。僕らは遺伝子に従うだけです。あなたは間違えていますよ。私利私欲を持ち込むような事ではないんです」 僕は男を諭した。 僕は少なからず男の事が理解できた。 僕だって、無料通話料を気にするほど人間臭くなってしまったのだから。 『私は……人間に慣れすぎたようだな』 男は急に威勢を失った。 「そうですね。こんな時間にアニメを観ている時点で、大分重傷でしよう」 実際、受話器からは時折アニメのような音がしていた。 『ハハハ。聞こえたか?』 「ハッキリと」 それを聞いても、男はテレビを消す様子はなかった。 『大丈夫だ。役立たずにはならないと誓おう』 「楽しみにしてます」 僕は2人の男をヒョイと仰向けにして、見開いた目を閉じてあげた。 『任せたぞ。また連絡する』 男はそう言って電話を切った。 僕はしばらくそのままの姿勢で止まっていた。 僕が、一番。 雨は最早雨ではなく、滝だった。 地球が泣いているのだ。 これから起きることを感じとって。 でも大丈夫。 僕にはそれがうれし泣きだと分かるから。 僕は顔を天に向けた。 雨は痛いほどだった。 そして痛感した。 僕も十分人間臭いんだ、と。
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