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俺の知名度しか興味のない女共を一度だけ怒鳴って追い払った事があり、丁度清掃に入ろうとした彼女だけがその場に残ったのだ。
彼女は牛の集団のように駆けて出ていく女共を見送ると、静かに掃除ロッカーからホウキを取り出した。
気の立っていた俺は彼女が何故居るかも知らずに、彼女の肩を乱暴に引いて持っていたホウキを投げた。
「早く出ていけ。お前も俺の見た目とか知名度目当てなんだろ」
睨んでいた俺とは反対に彼女は大きな目を二、三回瞬かせた後に携帯を取り出し何かを打っていた。
『ごめんなさい。耳が聴こえないので、ゆっくり話してもらわないと唇の動きがわかりません。掃除だけしたら帰りますので、気にせずピアノを弾いて下さい』
彼女は一回頭を下げて、申し訳なさそうに俺を見上げた。
突然の事に俺はどうしたら良いのか分からずに、固まってしまう。
自分も携帯で言葉を伝えたら良いのか、ゆっくりと話したら良いのか迷った。
そんな俺に気付いたのか、彼女は俺の服の裾を引っ張りピアノを指差した。
いつも通りに弾けというのか、彼女は微笑んで手のひらをピアノに向けていた。
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