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〈1〉
「あそこだ、あの街に」
唾を飲み、汗を拭った。手と声は震え、操縦桿が上手く握れない。緊張しているのだ。
「レイド、本当にやるのか? 今ならまだ間に合うんだぞ」
「うっせえ、ここまで来て引き下がれるかよ! 照準合わせ、ブースト点火で一気に行く!」
モニター越しのキルイへ噛み付くような表情で言い、手元の赤いボタンに指を掛ける。これを押せば、ものの数秒で目的地に着く。つまりこれは、選択。
自分の都合で街を破壊する。それがどんな結果になろうと、後悔だけはしたくない。
レイドは眼下に広がる街を鋭い眼差しで見つめ、自問自答した。本当にこれでいいのかと。
「分かってるよ……俺は、俺達はまだ、こんな所で」
視線をボタンへ移し、呼吸する。目を閉じると、自分の鼓動がうるさい位によく聞こえた。
「ミッションスタート、行くぞキルイ、ついて来い!」
目を大きく見開き、力強くボタンを押した。コックピット内が赤く染まる。それはブーストの点火を示すサイン。
瞬間、機体は轟音と共に急降下を始めた。その重力は凄まじく、訓練を受けていなければ忽ち気絶してしまうだろう。
瞬く間に近付く街の外れ、山中に構えるその家は、他とは比べものにならないほど大きい。
レイドは歯を食いしばり、照準の誤差修正をし始めた。確実に仕留める為に。
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