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「出番の3つ前になったらみんなで静かにホールから出て舞台裏へ回るからね。」
みんなでロビーに出て舞台裏へ移動した。
暗い舞台そでに立つと、1つ前の学校が歌っているのが見える。
美しい声で落ち着いて歌っている。
美奈子は部員ひとりひとりの手を握りながら
「落ち着いて!」と声に出さないで言った。
順番に握手して行って、最後が祐一だった。
祐一はあれから一度もたまり場へ行っていない。
思いがけず、いつもクールな祐一が小さく震えている。
美奈子が手を握ると祐一が美奈子に抱きついて来て、耳元で
「先生怖いょ…」と言った。
今度は美奈子が祐一の耳元で
「大丈夫!君には私が付いてる。」と言った。
祐一は美奈子を熱い目で見て、笑顔でがんばるよと口をパクパクさせた。
コンクールの篠中の出来栄えはよかった。
祐一たちは落ち着いて音程正しく歌えたし、声量は足りないものの、ハーモニーも美しいと思われた。
ピアニストの松崎はさすがに慣れていて実力を発揮していた。
成績は賞を取るほどではなかったが、審査員の寸評にはいいことばかり書かれていた。
『素直に歌っていて好感が持てました。』
『これからまだまだ伸びる可能性に満ちています。』
『とても新鮮でよかったです。
このまま練習を続けてがんばってください。』
生徒たちは寸評を聞いてみんなで喜びあった。
それから3年生は受験勉強に励み、コーラス部へはあまり顔を出さなくなった。
1月に3年生を招待して追い出しコンパ(ケーキとジュースだけだが…)をやった。
その後は1・2年生だけで『贈る言葉』を練習した。美奈子には考えがあった。
3年生のために最高の卒業式をしてやりたい。
そのためにコーラス部に『贈る言葉』を練習することにしたのだった。
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