1人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、夏の気配が近づいて来た、六月の終わり。
梅雨特有のじっとりとした空気が、肌を包む。
「暑い、」
さすがの蒸し暑さに、集中力も切れてきて、動かし続けていた手を止め、はぁ、と、溜め息を漏らせば、隣から、鬱陶しそうな視線が飛んで来る。
「もう、瑞穂-ミズホ-…暑いって言わないでよ!更に暑くなるでしょ!?」
「それは無い。ただ香織-カオリ-がそう感じるだけでしょう」
「不快感が増すのよ、馬鹿――――!」
キィッと、ハンカチでも噛みそうな勢いで私にそう叫んだ後、もう耐えられない!と、部屋から飛び出して行った。
「会長、良いんですか、副会長放っといて。」
「良いの。そろそろ緑くんも慣れて来たでしょ?香織の脱走」
そう、香織は脱走の常習犯なのだ。
この学校の生徒会役員は、選挙ではなく、純粋に成績で選ばれる。
一年生からは、入試で一番成績が良かった子が。
二年生からは、一年の時の成績が一番良かった子が。
三年生からは、今までの成績が一番良かった子が。
一年生は会計。
二年生は書記。
三年生は会長。
通常はその三人でやるのだが、私と香織はその例外で、一年生の時から二人で生徒会に所属している。
何故だか、毎年私と香織は同点一位なのだ。
順位も、私が一位を取ったと思ったら、次には香織が一位になり、香織が一位になったと思ったら、また私が一位になり、と、首位獲得回数まで同じものだから、“特例”として認められたのだ。
よって、今年の生徒会役員は、
一年生の笹川緑くんに、去年も生徒会役員だった二年生の工藤雅人-マサト-くん、そして、副会長の今泉香織に、会長の私、如月瑞穂の四人で構成されている。
香織は生徒会の仕事が面倒だから、と言ってよく彼氏の所へ逃げてしまう。
『生徒会長より副会長のが楽だしー』
なんて言ってあの馬鹿は、私に会長職を押し付けやがった。
ああ、今思い出しても腹が立つ。
最初のコメントを投稿しよう!