ごめんねジェリー

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私に初めて友達ができたのは忘れもしない十年前の夏でした。引っ込み思案でいつもぽつんと一人で遊んでいた私を気遣い父がつれてきた友達、それがジェリーだった。私とジェリーはいつも一緒。どこへ行くにも一緒。何をするにも一緒。まるで本当の友達のようだった。いろんな芸も教えた。「待て!」ジェリーの十八番は待て。どんなご馳走を前にしても一度待てと言えばいつまでも待っていた。ジェリー以外の友達なんていらない。当時、そんなことを思っていた私だったが、そんな思いとはうらはらにジェリーに興味を持った子どもたちが私の周りに増え始め、いつの間にか私にはジェリー以外の友達がたくさんできていた。「待て!」それから私の興味がジェリーから他に移るのにそう時間はかからなかった。以前のように私と遊びに行きたがるジェリー。ワンワンと吠えるジェリー。そんな時は彼の十八番が役に立った。私はジェリーに一言「待て」ジェリーはいつも私が帰ってくるまでそこで待っていた。一歩も動かずただじっと私の帰りを待っていた。 そんなおり、父の店が倒産し裕福だった私の家は没落。私たちは借金取りに追われ着の身着のまま逃げ出すことになった。自分たちの生活もままならない状況のなか真っ先に切り捨てる対象は子どもの私にも理解できた。自分の運命を察したのかジェリーは手足がちぎれんばかりに追いすがってきた。「待て!」私はいつもの一言を冷徹にあびせた。待て、私は一度も振り返ることなくジェリーの前を去った。 それから数ヶ月、私の足はあの場所に向かっていた。すでに遠い町に引っ越していた私だったが、どうしてもジェリーの事が頭から離れなかった。ジェリーならきっと大丈夫。きっと誰かが拾ってくれているはず。今思えば私は早く安心したかったのだ。私に罪は無いことを、ジェリーが生きてる姿を見る事でそれを早く確認したかったのだ。ジェリーは誰かのものにも亡骸にもなっていなかった、ジェリーはいつものようにそこで待っていた。一歩も動かずにただ私の帰りを待っていた。
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