去らば日常、来る幻想

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「……暑い」 顎まで滴る汗を拭いながら三日前に18歳になった青年──篠原 紫苑(しのはら しおん)は右手で持っていたバケツの中の冷たい水を少しだけ自分の顔にかけた。 それから今までどおり石の階段を上る。流石は田舎といった所か。紫苑の住む村は死者がちゃんと天に召されるようにと墓を山の頂上や山中に建てる仕来たりがある。田舎には仕来たりが付き物だ。 そのお陰で山の頂上へ続くこんな長い石の階段を汗を流しながら彼は歩いている。そう── 『  』の墓参りに。
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