始まりの鐘

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 瑠璃での内乱は、それでどうにか回避する事が出来た。だが、問題は、柘榴側が戦の中止を良しとしなかったところにある。  柘榴の王は、目的のためなら手段を選ばない、残忍な王であった。長年、海底世界を手中に収める事に情熱を注いでいた彼は、最後の砦とも呼べる瑠璃を手に入れる計画が、戦わずして潰えた事に納得が出来なかったのだ。  瑠璃と柘榴の関係は、そのときから、どちらともなく緊迫したものとなった。武力行使には至らないものの、決して相容れない間柄。俗に言う、両者の冷戦状態の始まりだった。  ちなみに瑠璃のマルセル王は、現在も王位の座に就いている。ケイオス王子は、彼の一人息子であり、次期王位継承者でもあった。  だからこそ、ナンシーは不安でならない。柘榴王が、未だ瑠璃を敵対視しているだろう事は、想像に難くないからだ。表面上は穏やかな風情をしていても、裏では人知れず戦の準備を進めながら、出撃のチャンスを窺っていても不思議ではない。  ナンシーは、一度だけ、遠目で柘榴王を拝見した事があった。枯れ葉のような茶の髪から覗く情のない薄い唇に、背筋が凍り付いたのをよく覚えている。
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