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「そのお言葉、是非ともお父様とお母様に教えて差し上げなさいな。きっとお喜びになりますわ。現にわたくしも、王子様にそのようなお言葉を掛けて頂けるなんて……涙が出てしまいますもの」
「えっ!? な、泣かないでナンシー、ぼく、そんなつもりじゃなかったんだよ!」
ナンシーは、口だけでなく、本当に泣いていた。ただでさえ人の良さそうな朗らかな顔が、さらにくしゃくしゃになっている。そのせいか、ケイオスは明らかに慌てていたが、ナンシーは目尻に溜まった涙を指先で拭い、ケイオスに向かって微笑んでみせた。
「いいえ、王子様。悲しいのではなく、嬉しいんですわ」
「……ほんと?」
「ええ、もちろん。王子様は、かしこいばかりでなく、お優しい方です。このナンシー、王子様がどのような王様になられるのか、今から楽しみで仕方ありません」
「うーん……、ぼくは、それを考えると、ちょっとドキドキしちゃうなあ……」
ケイオスは、年齢にそぐわないような小難しい顔をした。それは、自分がいずれ王位を継ぐ事を重く受け止めている証拠だ。
ナンシーはふと、ケイオスの父マルセルの少年期を思い出し、脳内で父子の姿を重ねてみた。
姿は瓜二つだが、ケイオスは真面目な優等生タイプ、マルセルは陽気な遊び人タイプと性格は正反対。そのためナンシーは、ケイオス王子はいったい誰の子なのかしら、などと考える事がよくあった。
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