プロローグ

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 彼は瞳を伏せた。落とした視線の先にあるのは、薄汚れた靴。乾いた赤が固まった様子は、少年に悲劇を連想させる。  つい先日まで、自分が立っているこの場所が惨劇の舞台だった事など、誰が予想出来ようか。少年自身ですら、未だにあの痛ましい事件を現実とは思えない。出来る事なら、思いたくもない。  少年の手が、腰に収まった剣の柄に伸びる。最初はただ触れているだけだったが、次第に指に力がこもった。 「……今度こそ、きっと」  低い声で呟く。達観したような少年の表情に深い決意が宿り、それまで感情のなかった瞳に、強い意志が映し出された。  少年は再び目の前の都を見据える。そうして、クロスした水泡が混ざり合って溶ける瞬間を、食い入るように見つめていた。  やがて、振り切るように視線を外す。  ――もう、行かなければ。  心に深い悲しみを抱え、都を背にして歩き出す。少年の前を踊るように通り抜ける魚たちは、傷心の彼を慰めているようにも見えた。時折自分を取り巻く彼らの意図が解っているのかいないのか、少年は悲しいほどに優しく笑う。  彼は背から遠ざかる都を振り返る事もなく、舞い上がる水泡の中に姿を消した。
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