始まりの鐘

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「王子様ー! どこですかー!」  甲高い声が幾重にも反響して、足音とともに廊下を走り回っていた。ドアというドアはすべて開け放たれ、タンスの上で丸まっていた猫もびくりと体を震わせる。  王子の部屋から始まり、衣装部屋、客室、王の部屋に王妃の部屋。どこを探してもいない、いない、いない。カーテンの裏もきっちり探したが、そこに小さな彼がくるまっている気配もない。  ベッドもすべて捲り上げた。下も当然確認する。タンスというタンスも手当たり次第に探し回る。それでもいない。捲った制服から覗くしわだらけの両腕を見つめながら、騒ぎの中心人物は深く溜め息をついた。 「まったくもう、王子様ときたら……逃げても無駄ですよ! お勉強はちゃーんとして貰いますからね!」  腰に両手をあてながら宣言する。周りを見回しながら、一通り部屋(ちなみにここは、いくつめかのメイド用の寝室であった)を歩き回った。一周したところで、彼女ははっと思い立ち、天井を見上げる。すると、そこから微かに流れる慌てたような少年の声。 「うわっ、とと……!! ナンシーあぶないっ!!」  突如天井に正方形の穴が開き、そこから小さな影が落下してきた。ナンシーはそれを両腕でキャッチする。
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