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「あー、びっくりしたぁ……」
ナンシーの腕の中の少年は、銀と黒の髪を左右にふるふると揺らしながら溜め息をつく。よほど驚いたらしい。
彼は不意に目を見開いてナンシーを見上げる。そして思い出したように暴れて腕から抜け出そうとしたが、彼女の両腕のガードは意外にも堅く。
「駄目ですよ、ケイオス王子。もう逃げられませんからね」
「うー……」
しゅんとなって俯いた。大きな蒼い瞳を伏せ、端から見るとかわいそうなくらいに落ち込んでいる様子だ。しかしナンシーとしても、脱走の常習犯であるやんちゃな王子をこのまま手放す訳にもいかず。
「さあ、行きますよ。あなた様は瑠璃王国の未来を担うお方。今しっかりお勉強しておかないと、お父様のような素晴らしい王様にはなれませんわ」
「……おとうさんも、ぼくみたいにちっちゃいときからべんきょうしてたの?」
「ええ、もちろんですとも。――それにケイオス王子」
ナンシーは、子どもらしい不機嫌な表情で自分を見上げる王子をたしなめるように続ける。
「あなた様はお身体が弱いのですよ。もしもの事があったらわたくしはどうすれば……うっうっ」
「わ、わかったよ……」
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