始まりの鐘

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 ケイオスはぷうっと頬を膨らませ、でも放してよ、と騒ぎながら再び腕の中でもがく。それをまた、嘘泣きをやめたナンシーががっしりした両腕で押さえつけるものだから、幼い少年は依然として反抗を続ける。  まだ五つにもなっていないケイオスがいくらもがこうと、ナンシーの腕で押さえつける事は難しくない。少年の力など、微々たるものに過ぎない。ただ、ケイオスは同年代の子どもと比べても、かなり強情なところがあったから、おとなしくさせようとするといつも骨が折れる。  しかし秘策はあった。こんなときナンシーは、いつもケイオスを肩車する。すると不思議な事に、彼はぴたりとおとなしくなるのだ。代わりにナンシーの首に巻き付き、ガタガタと震え出す。 「や、やだ……こわい、こわいよ」 「王子様はどうして肩車が苦手なんです? 高いところはお嫌いですか? さっきは屋根裏に登って遊んでいたのでしょう?」 「なに言ってるの、あそこは床も天井も壁もちゃんとあるけど、ここはそんなのないじゃないか。ひっくり返ったら、おっこちちゃうよ。だって背中がないんだもん。――うわあぁ、やめて、動かないで!」 「じゃあ、ちゃんと言う事聞いてお勉強しますか?」 「するするっ、なんでもするよう! だからおろしてー!」
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