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小さな王子は、ナンシーの首元に両腕を回して怯えていた。必死にしがみついてくる細い両腕を通して、身体がまだ小刻みに震えているのが伝わってくる。ナンシーが王子の両脇に手を入れて地面に下ろしてやると、彼は心底安心したように、ほうっと息をついた。
その直後、ケイオスは口元を片手で押さえ、ひどく咳き込む。もう片方の手は、胸元をきゅうと押さえていた。ナンシーは慌てて片膝をつき、少年の肩に手を置く。
「王子様、やはり無理はいけませんわ。やんちゃも程々にしませんと、お身体に差し支えますよ」
ケイオスはしばらく、息をする暇もないほどに咳き込み続けていた。やがてそれが落ち着くと、真横にいたナンシーの顔を見て、淋しげな顔で呟く。
「……あのね、ナンシー。ぼく、ほんとうは、おべんきょうがきらいなわけじゃないんだよ」
「ええ、知っていますよ」
「きらいなんじゃないんだ、でも、でもね……」
ケイオスは俯きながらも、自分の感情を表す適切な言葉を、必死に探しているようだった。王子の乳母であるナンシーは、彼が乳を吸っていた時期から面倒を見ているものだから、彼が何を言わんとしているのか、悲しいくらいによく知っていた。
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