始まりの鐘

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 だからナンシーは、ケイオスの小さな肩に優しく手を置き、彼の目を見て言い聞かせる。 「確かにあなた様は、お父様のように、剣を握る事は出来ないかもしれません。ですが、剣など取れずとも、お父様に負けない立派な王様になれますわ。その証拠に、あなた様はとてもかしこくていらっしゃる。お父様のように剣を取れないのなら、お父様よりもお勉強の出来る王様になればいいのです。ですから今は、いつか王子様がお父様の跡を継ぐときのために、しっかりお勉強しましょうね」 「……はーい。でも、ぼくはおとうさんみたいに、つよくてかっこいい王さまになりたいな。だから、いっぱい動いて、つよい体になりたいんだ」  ケイオスは渋々頷き、ナンシーと手を繋ぐ。ナンシーはその場で立ち上がり、少年の手を取って歩きながら、おどけた口調を作って言った。 「あら。わたくしは、今のままの王子様だって、素敵な男の子だと思いますわよ」 「うそだい! ぼくは、女の子にまちがわれてばっかりなんだよ。こないだなんかさ……」  ナンシーは、自分の言葉にくるくると表情を変える無邪気な王子を、素直に微笑ましく思う。だが一方で、複雑な気持ちも抱えていた。  この幼い少年が、瑠璃王国に忍び寄る危機に直面する日は、そう遠くないような気がしていたのだ。
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