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「分かってんなら逃げろ馬鹿野郎!!」
教官が叫ぶ。
そう言われても、火翼は椅子に縛りつけられていて動けない。
死んだら教官のせいだな、間違いなく。
火翼は首を巡らせて魔物の方を見た。
人間を惹きつけてやまない可愛い外見の魔物は、火翼の存在に気づいたらしく「キキョキョキョキョ」と可愛げない奇妙な鳴き方をしながら火翼の方へと跳ねてくる。
どうしたらいい?
火翼は考えるのを止めて、挙げ句の果てには、
「よし、来いっ」
ドーンと魔物を待ち構える。
「阿呆!! 死ぬ気か、馬鹿野郎!! 諦めが早すぎるんだ、少しは考えろ!!」
教官が走って来る。
だが、――間に合わないのは一目瞭然だった。
可愛い外見の魔物はメキメキと音を立て口を大きく開き、火翼に迫る。
剥き出しの歯ぐきは血のように赤く、よだれが勢いよく飛び散った。
「師匠!」
火翼には聞き覚えのない声が響いた。
そして強く後ろに引っ張られたかと思うと、次は火翼を縛っていたロープがブチブチと千切れる音がする。
声の主を探し、火翼は小さく息を飲んだ。
声の主は火翼を庇うように火翼の前に立ち、魔物に剣を向けている。
短めに切られた茶髪と、ひそめられた眉。
どこか幼さを残す雰囲気を持っていながらも、強い意志を宿す鋭い双眸だけは大人びて見える。
火翼は今度ばかりは目を見開いて驚いた。
「お前は――!」
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