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火翼の傍に走って来た教官が「知り合いか?」と目で聞いてくる。
火翼はのろのろと立ち上がりながら。
「いや……知らねぇっす。知り合いにこんなモブ顔いねぇや」
「モッモブ!? ひでぇよっ師匠!」
モブという言葉に敏感らしい男は、火翼を師匠と呼んだ。
火翼は師匠と呼ばれる意味が分からずにいたが、聞く暇はなかった。
「来るぞッ!!」
教官の声と共に魔物は可愛い外見を捨てたように、さらに歯ぐきを剥き出しにして舌をダラリと口から出したまま火翼たちに向かって来た。
火翼は教官と男が剣を構えるのを見て、自分の手を見下ろした。
「俺、何も持ってねぇっすから、口で後方支援しまーす」
「とことん役に立たん奴だな、お前は!!」
そう言いつつ魔物に向かって行く教官を、火翼はのんびりと見送る。
「頑張ってぇー」
「手伝うぜ……っ師匠の教官!!」
男はそう言うと教官と共に魔物を斬りつける。しかし。
――――バキィン!
「……へ……っ?」
間抜けな男の声と共に折れた剣が宙を舞った。
驚愕する男と教官だったが、次の行動は速かった。
横に飛び退き、間合いを取る。
「剣は通用するはずだが……」
渋い顔で教官が唸り、男は厳しい顔で折れた剣を見つめる。
「何でだ? 剣が折れるほどの強度じゃねぇはずなのに……!」
そう呟いた男はハッとしたように火翼を振り返る。
「師匠! 師匠なら分かるよな!?」
「はぁ?」
火翼は眉をひそめた。
あのモブ顔は一体何を言い出すのか。
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