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男はこちらに向かってくる魔物の目に狙いを定め、矢を放った。
――ドッ……!
男の放った矢が正確に魔物の目を貫くと同時に、悲鳴が響く。
悲鳴が止み、倒れた魔物は確認するまでもなく事切れている。
「おぉ……すげぇな、モブ」
火翼は全くやる気のない、馬鹿にしているとしか思えない拍手をしながら男を見た。
やはり知らない顔だ。
「オレは……ッ、オレはモブじゃない! 鳩羽 十志だぁ……!」
見ているこちらが悲しくなるような悲愴感に溢れる表情をする男。
「え、名前あんの? モブのくせに」
火翼は非常に驚いて見せた。
「だから、オレはモブじゃないって!」
そう言って異議を唱えるモブ顔の男を、火翼はあっさりと無視している。
……鳩羽、十志……。
内心で復唱しつつ、僅かに表情を曇らせる火翼。
――十志……。
どこかで、その名前を聞いたことがあるような気がした。
……まあ、同名の奴なんていくらでもいるだろうしな……。
火翼の脳裏を掠めるのは、引いて歩いた幼い手だ。
分かんねえ……、また今度考えよう。
人の名前を覚えるのが苦手な火翼だが、覚えると決めたことはすぐに覚えてしまう。
「魔術が使えるということは、お前は魔族なのか?」
教官がモブ顔――もとい、十志を見て言った。
十志は戸惑ったように目を泳がせる。
「オレは……」
「違ぇよ、教官。そいつは魔族じゃねぇっす。魔族なら魔物の生態について詳しいはずだから」
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