1.動き出す攻防戦?

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外に出たばかりで人間を襲うはずねぇんだがな……。 火翼は魔物の背中を見た。 何もないように見えるが、首の後ろにうっすらと小さな模様が浮き出ている。 卵に細工してたのか? そこまでして一体誰を……。 火翼の脳裏に浮かんできたのはあの声。 ――キヲツケロ。 ネラワレテイルゾ――…。 もし、狙われているのが俺だったら? 誰が、一体何のために? 火翼には命を狙われることをした覚えがない。 もふもふそうに見えて硬い魔物の毛皮を触りながら、火翼は考えていた。 「すみませんが、魔物の死体の始末をしてもよろしいでしょうか」 火翼は「は?」と、声をかけてきたえらく美声の持ち主を振り返る。 ――薄いグレーの長い髪と、蒼い眸の、人間にしては秀麗すぎる男。 ……魔族か。 長い髪は魔族特有のもので、髪の長さは魔力の大きさと言われている。 火翼は同性でさえ見惚れるだろうその美貌に、他人には分からないほど小さく眉をひそめた。 俺はこいつを知っている……? いつも感じていた視線。 それと同じものを目の前の男から感じる。 ――が、火翼はそれを顔に出すことなく男に応じる。 「いいっすよ」 男の顔は暇つぶしにペラリとめくった何かの教科書で見たことがあった。 「……討伐軍隊長がわざわざこんなところに来るなんて、何企んでんだ?」 「おいこら無霧! 失礼だぞ、口を謹め!!」 教官が火翼の口を塞ぐ。 「すみません、うちの馬鹿生徒が失礼を……」 言いながら、火翼を押さえて強制的に頭を下げさせる。 「構いませんよ。私は夕霧 響夜と申します。……確かに討伐軍の隊長ですが、指示を出すことだけが私の仕事ではありません」 「時にはこうして見回りを」と言ってニコリと微笑んだ。 胡散臭い笑い方だと火翼は思う。
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