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夕霧は魔物の死体の片付け作業にとりかかろうとしている。
「…………」
ずっと夕霧の行動に気を配っていた火翼は夕霧の眸がスッと細まったのに気がついていた。
倒された魔物を見る夕霧の眸からは全くと言っていいほど感情が感じられない。
魔物の死体を乱暴に扱うだろうと予想していた火翼の目の前で、夕霧は魔物の死体に手をかざした。
――光が、魔物の死体を包み込む。
「消えろ」
そう夕霧の唇が動いた気がした。
光に包まれた魔物の死体は弾けるように霧散し、後には光の粉だけが残る。
キラキラと太陽の光を反射しながら舞うそれを火翼はじっと見つめていた。
今この一瞬を忘れてはならない。
――そんな気がした。
だから俺は、忘れないように。
この場にいる誰もが忘れてしまったとしても、俺だけはずっと覚えていることを
密かに胸に誓った。
風が吹き、夕霧の薄いグレーの髪がなびきながら、光によって銀色に輝いている。
教官や十志のように夕霧に見惚れてやるほど、火翼は魔族に警戒心がないわけではなかった。
特にこの、夕霧 響夜という魔族。
全てを見透かしているようで、火翼の何かを見定めようとしている眸が火翼の癪に障った。
火翼は夕霧を見るのを止め、端から見れば興味を失ったように欠伸を洩らす。
夕霧が物凄く信用ならない魔族だということさえ分かっていればいいのだから。
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