1.動き出す攻防戦?

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「さて……」 仕事が済んだ夕霧はくるりと火翼たちの方を振り返り、主に十志を見ながら言った。 「行きましょうか」 「……分かったよ、夕霧サン」 諦めた十志の顔に浮かんでいるのは仕方がないというような表情。 「おー……、俺も行くぜー」 やる気のない火翼の声に夕霧があからさまに眉間にシワを寄せる。 「貴方は授業があるはずですが」 「え? ないない。授業なんてないよ」 火翼は首を横に振ってそう言うのだが。 「嘘をつくな、嘘を! まだ授業中だろうが」 教官が邪魔をした。 「ちっ」 火翼の小さな舌打ちを教官は耳聡く聞き取る。 「今舌打ちしたな? え? どういうつもりだ?」 ガシッと胸倉を掴み上げられた火翼は怠さの抜け切れない顔でへらりと笑う。 「え? はは――嫌だな、教官。真面目な俺が舌打ちなんてするはず……」 「ほほぅ? 真面目な? なら授業を受けるんだな?」 教官の言葉に火翼は「ち…っ」と思わずもう一度舌打ちをしてしまった。 にこやかに、教官が笑う。 ――3・2・1 「してんじゃねぇか、このド阿呆! 一度死ぬか、ええ?」 至近距離で眼を付けられ、火翼は胸倉を掴まれたまま肩をすくめた。 「や……死にたくはねぇっす。モブより先に逝くなんて絶対に嫌だ」 珍しく真剣な顔で火翼は首を振った。 「……はぁ……。授業はちゃんと受けなよ、火翼さん」 モブと言われることに慣れたらしい十志がため息混じりに言った。 火翼は胸倉を掴んだままの教官の手にそっと手を添え、にっこりと笑いかける。 「俺……、授業に出たって多分卒業できねぇし。来年は頑張るって」 それに対し教官はしたり顔で笑いつつ、添えられた火翼の手を捻り上げた。
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