2.瓦解する日常

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………。 …………………。 嫌な、夢を……見た。 夢……。 あれ……は、ゆめ――? いつもより速い心臓の音が耳につく。 火翼はびっしょりと額を濡らしている汗を腕で拭った。 「………何だ、あれ?」 夢だ。それは知っている。有り得ないほど現実味を帯びた、夢。 「何つーもん見てんだよ、俺……」 ため息と共にこぼした言葉。 「ほぅ? 俺の授業で寝て夢まで見たか、無霧?」 顔を上げると目の前に引きつった笑顔の教官が教科書を片手に立っていた。 「わお、教官だ……いてっ!」 「ゴスッ!」と教科書の角で叩かれた火翼は頭を押さえて痛みに呻く。 「ぅあー……暴力反対、この暴力教官ー!」 「何が暴力だ! お前が珍しくうなされていたから、他の生徒が心配して授業が進まなかったんだぞ!」 再び教科書の角で叩かれた。 「……あ? でも俺、起こされてねぇっすけど」 うなされていたら起こすだろう、普通は。 責めるように火翼が教官を見ると彼は動揺したように目をそらした。 「何度も起こしたんだ。そりゃあもう色々と手を使ってな」 周りの生徒に目で聞いてみる。 本当か? 生徒たちはそれぞれ目をそらし、肩を震わせダラダラと別の意味で汗をかいている。 起こし方に問題があったらしい。 誰一人として火翼の顔を見ようとはしないのだ。 こういうことは前にもあった。こういう反応の時は教官が俺の顔に落書きをしている時だ。 「……ふー……またかよ。今度は何書いたんすか?」 そう言いつつカバンから鏡を取り出した火翼。 見て驚いた。 書いたのではなく、化粧をされていた。しかも妙に上手い。 「ぉおー……! これ俺いけんじゃね?」 1人で盛り上がっていると、教官に今度は丸めた教科書で叩かれた。 「洗ってこい」 俺の顔いじったのあんただろうが。 火翼は仕方なく席を立った。
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