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ジャブジャブと顔を洗う火翼。
鏡に映る自分の顔はかなり疲れて見える。
「――……」
濡れているのは顔だけではない。頭を冷やしたかった火翼は髪までびっしょりと濡れている。
無意識のうちに小さなため息が火翼の口から漏れた。
「ため息なんてらしくありませんね」
火翼は驚いて突然現れた夕霧を鏡越しに見た。
何だ、こいつ……。いつからここにいた?
深く考える必要はない。火翼はいつも見られているのだから。
バレていることを夕霧は知らないだろう。
わざわざバレていると言ってやる義理もない。
「お前ウジ虫みたいに突然わいて出て来るよなー」
火翼がからかうように話しかけると、夕霧は何を考えているのか分からない顔で言う。
「人をウジ虫呼ばわりしてはいけません」
夕霧はニコリと表面上笑っている。
「たとえ、それが自分より優れた上位の存在で、全ての面において適わない人だとしても、そのような言葉でわざわざ優位に立とうとする姿は無様でしかありませんよ」
つまり夕霧の中の俺の評価は最低ランク、と。
てか、どれだけ自分評価してんだよ?
……いや、夕霧はそのままを述べただけか。
「……へいへい。気をつけますよーだ」
火翼はタオルでごしごしと顔を拭くと、教室に戻ろうとした。
「あ。そういや何か用なわけ?」
ふと思い出して聞いてみる。
夕霧がこうして火翼の前に出て来ることは今までに一度もなかった。
姿を見たのは、この間が初めてだ。だが、この間は任務という名目があった。
なら、今日は?
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