2.瓦解する日常

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………。 …………………。 待つこと35分。 「俺をタクシーを呼ぶみたいに呼ぶんじゃない、無霧!」 運転手登場。 「や。教官」 火翼は気さくに片手を上げて教官を出迎えた。 「すっげぇ待ってたんすよー? 随分遅かったッ……んむっ」 ガシリと口を塞がれ、火翼は黙るしかなかった。 火翼の口を塞いだ教官が睨んでくる。 「黙らんのはこの口か? えぇ?」 ギリギリと強くなっていく教官の力にも火翼は屈しない。 教官の手からするりと抜け出した火翼はいかにも信頼しているという表情をして笑う。 「教官しかいなかったんだよ。なぁ……さっさと帰ろうぜ、俺ン家に」 「オイこら待て。お前の家じゃないだろうが」 教官は眉間にシワを寄せる。 「え……? 俺ン家だぜ?」 「俺の家だ、阿呆!」 火翼は教官の言葉に困ったような顔をしてみせた。 「知らなかったなぁ……」 白々しくそう言う火翼に、教官の顔が引きつる。 「えっ!? 火翼さん、レイダスさんの家にいんの!?」 十志が心底驚いたように言ったので、火翼はのんびりと頷く。 「まぁな。俺、親とかいねーから、結構前から教官ン家にいる」 「行き倒れてた所を助けられたんだぜ」と言って火翼は教官の肩に腕を置いた。 教官の方が背が少し高く、火翼は腕を上げる形になる。 「現在進行形で命の恩人なんだぜ」 飯を作ったり、飯を作ったり、飯を作ったり……。 十志は火翼の思っていることが容易に想像出来て教官に同情した。 「あぁもう良い。帰るぞ」 「あ、教官ー、モブも今日から世話してやってくれ」 火翼の言葉に 教官は片眉をぴくりと上げた。 何故俺が、世話をしてやらなければならない? そんな表情の教官を見て十志は慌てて首を振った。 「家事全般は出来るんで、部屋を貸してくれるだけで……」 「……無霧よりはかなりマシだな。 よし……、許可する」 頷く教官を見ながら火翼は口の端を上げて笑った。 これから“何か”が壊れていく気がする……。 それが何なのか、火翼はぼんやりと分かっていた。 ――穏やかで安らかに眠ることのできる、幸せでいて退屈で怠いだけの…… ――――俺の、日常……。
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