4.10年前の謎

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吐息が外気に触れて白く濁る、12月。 「まさかあんたが ここに来るなんてな……」 と呆れ顔で肩をすくめるのは…… ――“師匠”と呼ばれる無霧火翼。 「……。」 無言でじろりと見上げられた火翼はやれやれと首を振って金髪の男を見た。 金髪の男は土足のまま窓枠に腰掛けているため、火翼は見下ろす角度になるわけだが……。 「どうしてここに来た?」 金髪の男は答えない。 何かを深く考えているのだろう。 「……ったく、俺の家の中汚しやがって……」 火翼は汚れてしまった床を見てため息をこぼした。 「この世界のは死んだと聞いたが」 ふと口を開いた金髪の男。 火翼は「あぁ…」と軽く返事をするが、ハッとする。 「それ誰のことだ?」 「決まっている。この世界の俺(屑)を殺したゴミ屑だ」 ザキラスか? いや、ザキラスがこの世界にいないことは金髪の男には手に取るように分かるだろう。 火翼は考えた末に行き着いた答えに苦笑する。 ――俺、か……。 「そうだな……。とある馬鹿は俺が死んだと思って今暴走の最中だが……」 「見ての通り俺は生きてるな」と言ってモップを取って来る火翼。 「……ソレも力か」 思案顔の金髪の男。 「いや…?違う。あれは剣が主人を傷つけることのないように作られた魔剣だったからだ」 火翼は机の上に置いてある愛剣を目で示す。 すると、興味を引かれたらしい金髪の男がやはり土足のまま机に近づいて行く。 火翼は広範囲に広がった床の土汚れを見て「……ハァ」とため息をついてモップをかけるのを止めた。 こいつがいる限りモップに意味はない。 魔剣を手に取り、鞘から抜いたりして見ていた金髪の男が火翼をチラリと振り返った。 「……。」 目が、何かを語っている。 それが理解出来た火翼は首を横に振る。 「駄目……と言うか、あんたはそれじゃなくあっちだな」 「取って来い」 命令口調の金髪の男。 取りに行くことを決めていたので、火翼はため息をついて剣を取りに行く。 これ以上床を汚されたくはない。 剣を投げて渡した火翼は「ほぉ…?」と言う小さな感嘆の声を聞いた。 「この前見つけて買っておいた」 ……馬鹿の貯金で。 「……気に入った」 火翼は極悪人が浮かべるような笑みを見た気がしたが、気のせいと言うことにしておいた。 .
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