毎朝の日課

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23歳独身、榎本 美鶴。 人が羨ましがるような恋もしたこと無ければ、彼氏もいない。おまけに好きな人もいない。 特に他人に対して楽しみに思うことは無いけど、最近密かに楽しみにしている日課がある。 毎朝、月曜から金曜は会社に向かうためにバスに乗る。 そして、ある人を探すのだ。 バスに乗ると必ず、彼を探す。居ますように……今日も……居ますように……なんて、心の中で何度も願い、人が多い暑苦しい車内を見渡すくらい気になっている。 メイクも崩れるし髪型も変わりやすいから、人が多いのは嫌なんだけど……でも、彼に会えるならいいやと思えた。 「……今日はどこに座ってるのかな?」 小さく小さく声に出しながら探す。 きょろきょろと首を振り、しばらく探していると……ある一角だけ空気感がまったく違う所を見つけた。 周りのオーラはブルーだったりピンクだったり黄土色に感じるけど、そこだけはクリアだった。まるでどこかのパワースポットかのように触れてもいないのに、何かを感じる。 間違いない、彼だ。そう確信しながら、そのオーラを放つ人物が見えるように少し顔を動かすと、やっぱりそうだった。 バス席の右側で音楽を聞いて、静かに目を閉じている。 ストレートの綺麗な茶色い髪。スッと鼻の筋が通っていて、整った顔立ち。そして、象牙色の肌。 きっと私以外にも彼のことを素敵だと思う人が五万といる、そう思わせるようなオーラを放っていた。 ちょっとだけ近くで見たい。少しだけ近付こう……。 周りの人にもあやしく思われないように、自然にバレないようにゆっくりゆっくり彼の近くに向かった。 自分の顔は見られたくないのに、彼の顔はばっちり見たいのだ。自分のことながら浅ましい人間だなと思うけど、つまらない毎日に少しくらい良い思いしてもいいじゃないかと開き直ることにしている。 よし! バッチリ見えるっ! ……やっぱり格好いい。 誰も知らない私の毎朝の幸せ。 彼の年齢は分からない。ただ通勤用の鞄を持っていることとスーツを着ていることから、社会人だっていうことが分かる。 ただそれだけ。 ただ、見れればいいだけ。 高望みをしたら、この幸せが壊れそうで怖い。 「今日も良いことあった」 貴方を見るだけで1日が引き締まる気がした。
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