六い・はの枕投げの決着をつけてみた

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 それでも同じくパワー型の留三郎とでチームバランスは取れており、一進一退の攻防を繰り返していたのだが、なんと言い出しっぺである小平太が早くもこの戦いに飽きた……というより物足りなくなったらしい。中在家長次の脛に思いきり枕を食らわせると、したり顔で戸口へ向かって飛び出す。普段物静かな彼も上がったボルテージにまかせて後を追う。  この時、入口近くでは丁度い組の二人が睨み合っていた。それまで仙蔵は飛んでくる枕から避けて回っていたが、それが体力を削ったのだろう。寸でのところで突進してきたろ組の二人を避けたものの、体勢を崩し、尻餅をついたのだ。それでも振りかぶった枕を級友へ見舞おうとする闘争意欲は大したものだったが、小平太が開け放った廊下より、 「なんのケンカですかぁ?」  と舌足らずのぽやんとした声。一年は組の三人が半分瞑りかけた目を擦りながら立っていて、決まり悪そうに顔を引きつらせる。寝呆けて目の前の状況をいまひとつ把握できない……もしかすると誰と喋っているかすら認識していなさそうな三人は、困惑と照れとを一緒くたにした笑顔の仙蔵にやんわり追い返され、もにゃもにゃとなにやら呟きながら暗がりへと消えて行った。  静かに戸を閉めた仙蔵の顔面と腹へ、至近距離からの文次郎渾身の二発が繰り出されたのは彼が溜息を吐ききった一瞬の隙であった。  一足遅れて留三郎は放った一撃を伊作に躱され、逆に下から迫った枕に強かに顎を掬われる。それで、勝負あり。仙蔵と留三郎は揃ってひっくり返ったのだった。 「ふふふ、お昼何食べよっかなあ~」  伊作の弾んだ声音に留三郎は思考を引き戻す。好物をあれやこれやと指折り数える表情は実に幸せそうで。 「不運は保険委員長の専売特許のはずなんだがな」  両足を投げ出して、後ろ手で体を支える。自然、上体が反れ、再び天井の木目が目に入った。 「鍛練が足らんわバカタレィ」  足下の枕を蹴り避けて文次郎が移動する。 「お前もだ、仙蔵。いつまで寝てている」  爪先で脛を蹴られて煩そうに腕の隙間から睨めつける仙蔵。のそりと身を起こすと乱れた髪を後方へ流す。仏頂面で俯き加減なのは負けたのが余程悔しい所為だろう。立てた片膝に腕を乗せて、文次郎の言葉を言い返しもせず聞いている。  首だけ巡らせてそれを眺めていた留三郎は、小さく鼻を鳴らす。珍しい光景だ。
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