六い・はの枕投げの決着をつけてみた

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 学園一冷静な立花仙蔵。  六年間の付き合いのある自分達は、彼が存外熱い性質を持っていることを知っている。お陰で然程の驚きは抱かぬものの、その外見から淡白な印象を持たれやすい彼のイメージを信じている下級生達が、今の恰好を見れば間違いなく眼球を飛び出させて驚くに違いない。  伊作、文次郎、自分、もう一度仙蔵。  現在も何処かで……おそらくは裏山辺りだろうが、戦い続けているに違いない両人は置いておいて、例えば伊作と文次郎。立っている為か、ざっくりと胸元が開き帯が緩みかけいる程度。同様に留三郎も大きく脚を投げ出している以外は二人と似たことになっている。  だが仙蔵の有様はどうだ。襟は肩から落ち肘の所で溜まっているし、胸も腹も脛も、それこそ片膝立てている所為で内腿までが曝け出されている。辛うじて帯が踏み止まっているという態か。  各々の姿を確認するも、やはり一番あられもないことになっているのは学園一冷静で優秀な立花仙蔵。滑稽と言うと悪くなるが、こういった姿を目の当りにすると、彼もまた自分等と変わらぬ少年なのだと感じられ、外観も去ることながら、文次郎にやりこめられっぱなしという、やや一方的な二人のじゃれ合いが微笑ましくかつ珍しく。「ははっ」と思わず声が漏れるほど、留三郎は小さく微笑んだ。 「? 留さん?」 「んー?」  名前を呼ばれたので返事をした。顔はい組に向けたまま。 「見ろよ、面白いことになってるぜ」  一旦留三郎を見た伊作は、彼に倣って首を回す。 「………!」  留三郎と同じ光景を目にし、パチパチと瞼を開閉させる伊作。同時に露出がとんでもない仙蔵を目の当たりにし、思わず頬を染め目を逸らす。その間もい組を眺め表情を弛める相方に小さく唇を歪ませた。 「留さんはこっち!」  横になっている首をぐきりと音がしそうな程に強引に戻す。唐突で驚いたらしい留三郎の三白眼が何度も瞬く。そこには拗ね顔の伊作が大映しになっていて、膝立で屈んでいる為汗ばんだ腹の奥まで視界に入る。  留三郎としては、い組の二人……この場合問題なのは仙蔵だろうが、彼等を見ていたのに何ら疚しいところなど無い。が、伊作の不機嫌はそこに起因しているのは間違いなく。伊達に長く付き合っているわけではないので、互いに弐心など持ちあわせ無いとは解っているものの、やはりおもしろくないということだろう。
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