春眠暁を覚えず

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「ちこく、ちこくする」 ゼェゼェ息を切らしながら説明した。 「そうか」 大宮は隣のクラスだし、自転車だからちっとも焦ってなかった。 涼しげな顔が恨めしい。 「……乗っけてってやろうか?」 「え!いいの!」 「その代わり、昼おごってくれ」 「構いません!」 大宮の自転車はいわゆるママチャリだ。 大宮曰く、 「どんな画材も大抵積めるぞ」 だそうだ。 流石だぜ部長。 俺はいそいそと荷台に腰掛けて大宮の脇腹に手を伸ばした。 途端、 「おいこらてめぇ」 「ん?」 「何しょっぱいことしようとしてんだ。ファースト腰ギュッは未だ見ぬ彼女に捧げるんだって決めてんだよ。サドル掴めサドル」 「あぁ、うん。冗談冗談」 小さい頃母さんにしてもらって以来、全然したことなかったから、二人乗りセオリーが全く分からなかった。 でも、考えてみれば男子二人乗りで引っ付いてる図はかなり痛いししょっぱい。 何だか急に恥ずかしくなって変な誤魔化し方をしてしまった。 「…んじゃあ、行くぞ」 「オッケー」 大宮はちっとも気にしてないみたいだ。 良かった。
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