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「あっいいですから!俺が拾いますから!」
「いやいや、落としたのは俺のせいだから…」
盆の上に欠片を集めて乗せていく4つの手。
あらかた拾えて俺が手をひくと、コウモリさんは紅茶で濡れた手をぺろ、と舐めていた。
微かに肩が震えた。
「ありがとうございました、どうもすみません…」
俺は微妙な空気を断ち切るように、盆を持って立ち上がる。
急にピリッとした痛みが足の裏に走った。
「痛!……あ―」
カップを落とした時に一緒にナイフも落としてたらしい。
どうも俺はそれを踏んづけて足を切ってしまった。
でも、よく傷口を見てもそんなに深くは無いように思えた。
「ゆず…」
「あっ、ちょっとナイフ…で……」
独り言のような呟きは俺の名前を呼んだけど、まったく俺に向けられていなかったことにすぐ気がついた。
だってコウモリさんの視線は真っ直ぐ、切った足に刺さっていたから。
(我慢してる…
“気に入った”「ゆず」が怖がるから、とか?
…ありそう)
じゃあ今、俺が逃げたら?
もしくは、俺が捧げたら?
熱っぽいため息が漏れた。
何で?
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