0人が本棚に入れています
本棚に追加
森の中の朽ち掛けた小屋を、黒いスーツを着た十数人の男たちが取り囲んでいた。
ひとりだけ、羽織袴姿の人物がいる。
悪名高き鈴木冨治郎だ。
夕暮れが始まろうとしていた。
鈴木冨治郎は
「そこから出てこい!」
と怒鳴った。
私は無言で応えた。
それはすなわち
「いやだ!」
という意志表示だ。
鈴木冨治郎は
「出てこなければ小屋に火をつける」
と言い放った。
鈴木冨治郎ならやるだろう。
火をつけられたらどうにもならない。
アクション映画の主人公なら何か打つ手を思いつくのだろうが、私には手段や作戦はおろか、何の考えも浮かばなかった。
私は只のサラリーマンだ。
家のローンはあるが、隠し球など一切なかった。
それでも私は無言を通した。
「わしは鈴木冨治郎だ。わしに逆らう者などこの世に存在しない。もし存在したとしてもすぐに存在しなくなる。
わしの言ってる意味はわかるな?
丸焦げになるのはいやだろう?
明日の朝日が見たかったらすぐに出てくるんだ」
鉄の棒で串刺しにされたブタの丸焼きを思い浮かべ、膝が震え始めた。
最初のコメントを投稿しよう!