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「っはぁ~!!つっかれた!!」
その日俺が学校を出れたのは十時を回っていた。
プリントの採点だったり、中間テストについての思案だったり、何かと学校には残る機会があって、いつも俺が職員室の戸締まりをして帰る。
だけど、こんな時間までダラダラとかかってしまったのは…全て神楽のせいだ。
事あるごとにあの勝ち誇った笑みや視線が、フッと浮かんで頭から離れなかった。
まぁ、そんなこと考えてても仕方ないんだが。
腕時計に目をやる。
早く帰らないと明日に響いてしまう。だから俺は近道を通ることにした。
夜になると賑わうばかりの歓楽街。
スナックやらキャバクラやらの看板のネオンが眩しい。
ここを突っ切れば自宅までの道程が五分は短縮出来るのだ。
自転車に乗ったまま通るのは結構危険で、ゆっくりペダルを漕いで進む。
そこを抜けると、ラブホ街に突入する。
何組ものカップルが出入りするのを横目で見ながら、不況なのによくやるよ…なんて感心した。
その時、視界に有り得ないものが入り、俺の心臓が一瞬止まる。
立ち並ぶホテルの内の一つ。高級感漂う雰囲気のものの前で、俺は我が目を疑った。
今にもホテルに入ろうとしている男女。
いかにも夜の蝶と言わんばかりに色気あるドレスを纏った綺麗な女性が、腕を絡める相手。
「―――神楽…ッ!!?」
気付いた時には、そう叫んでいた。いつの間にか自転車からも降りている。
神楽は目を丸くして俺を見る。
「…先生、こんなところで何やってんですか?」
ケロッとした拍子で神楽が口にする。その言い方と態度に、今日一日で溜まっていたものが爆発した。
「それはこっちのセリフだろ!?未成年がこんなところで何やってんだっ!!」
神楽の横の女性は俺と神楽を交互に見ていたが、『未成年』という単語に明らかな動揺を見せた。
「え、本当に学生だったの?」
「うん、そう言ったじゃん。信じてなかったみたいだけど」
彼女は、バツが悪そうな顔をして神楽から身体を離す。
「じゃ、じゃあ私、お店戻るわねっ」
そう言って彼女は気まずそうに去って行った。
俺は彼女を笑顔で見送る神楽の手首を掴みあげる。
「こんな時間にウロつく事自体法律違反だぞ!!分かってるだろーがッ!!」
「分かってますよ?だけど、そもそも俺が法律とか校則とかの『決まり』を守るような人間だと思ってるんですか?そんな人間ならまず授業サボったりしませんよ」
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