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「能書きなんか述べてる場合か!!お前、これは充分停学処分もんなんだぞ!!」
怒鳴る俺に、神楽はあくまで冷静に肩を竦めた。
「説教なら聞きますから、場所移動しません?さすがにここでそんなこと大声で言うのは、他の客に迷惑なんじゃないですか?雰囲気ブチ壊し」
言われて俺は我に返った。
そうだった…ラブホの前だったんだ…。
周囲の痛い視線が注がれ、急に羞恥に襲われた。慌てて神楽の手を離す。
「ま、まぁ…とにかく、ここから抜けるぞ。俺ん家近くだから、そこで話の続きはする。その後、駅まで送るから」
今の時間に教師と生徒が一緒にいるなんて、誰かに見つかったら絶対ヤバい。だから仕方なく我が家まで連行するしかない。
そう俺が判断したことが、まさかこれからの人生を左右することになってしまうなんて、この時は思ってもみなかった………。
「狭いけど…テキトーに座ってくれ」
1Kの部屋の中に神楽を招き入れ、ベッドの上に荷物を置く。
神楽は床に座ると、キョロキョロと部屋を見回す。
「教師は安月給、ってマジなんですね」
「…うるせぇ。お前には言いたい事も聞きたい事も山程あるんだっ!嘘偽りなく正直に答えろよ!?」
「いいですよ。何ですか?」
焦ることもなく、神楽は未だニコニコと笑っている。
さすがの俺も半ば呆れて、言い返す言葉がない。
意気消沈といった感じに一つ溜め息をつき、俺は真四角のテーブルを挟み、神楽の右側に座ると口を開く。
「まず…屋上にどうやって入ったんだ?」
「あれくらいの鍵ならヘアピン一本で開けられますから」
「…何で今この時間にあんな場所にいたんだ?」
「何となく遊びに」
「遊びぃ!?親御さんは何も言わないのか!?」
「知らないんですか?俺の両親は海外で暮らしてるんで、一人暮らしなんですよ。……どうかしましたか?」
「両親が海外って…本当に?」
「嘘ついてどうするんですか。本当ですよ。俺の父親は俺の父親らしく女遊びが派手でして。俺を産んだ母親は今海外で一緒に暮らしてるんですが、父親はバツが三つくらいあるらしいです。んで、いつの間にか勝手に両親は海外移住しちゃったんですよ」
本当にこんな話があるのか…なんて両親なんだ…。
愕然とした俺に、神楽が苦笑を漏らす。
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