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自転車でいつもの通勤路を走る。いつもの景色に、いつもはいない神楽がいる。
あの神楽がこんな早い時間に登校してくるなんて、先生達驚くだろうなぁ…。
健康的に自転車に乗ってる姿も想像出来ないし。
風に流れる黒髪。清々しい表情。
どこから見てもカッコいいんだよ…同じ男として自分が哀れになるくらい。
パチッと目が合って、神楽がフワリと笑う。
うっわ…!!なんて顔するんだ!!
「何?また見惚れてるんですか?」
「『また』っ…!?だ、誰が見惚れてなんかいるか!!」
「ふーん…まぁいいですけど。気持ちいい道ですね」
「あぁ。俺、ここ好きなんだ。並木の間を通る坂道…風がさ、気持ちよくて」
自然と顔が弛む俺を、神楽が優しく見つめる。
驚くほどに、今この状態に違和感を感じない。
いつもの風景ではないのに、心臓はうるさいままで…。
「先生が好きなら俺も好きになれますね」
そう言って神楽は前を見据えた。学校では見れない顔に、一喜一憂してる自分がいる。
こんな感情…知らない。
紛らわすように、俺はペダルを強く蹴った。
「生徒用駐輪場はあっちだろ」
「待っててくれます?」
「はぁっ!!?」
「俺が停めて戻ってくるの、ここで」
「それで、どうするんだよ?」
「一緒に教師用駐輪場に行きます」
それって…もしかして、と思うけど…。
「…なんで?」
「離れたくないからです」
やっぱりそうなのか…。
俺がうなだれると、顎に神楽の人差し指がかかる。
クイッと顔が上に向けられたかと思うと、神楽の唇がチョンと唇に触れた。
「!!…おまッ…!?」
「約束ですよ?それじゃ」
自転車に跨がると、神楽は駐輪場に走っていく。
口を押さえて、俺は後ろ姿を見送った。
何が『約束』だ!!約束ってのは相手の同意があってこそであってだなぁ…っ!!
…なんで俺も言われた通りに待ってんだよ!?
動かない身体。神楽なんか気にせず、先に行くことだって出来るはずなのに。
駐輪場から駆け足で戻ってきた神楽は、俺を見てパッと笑顔になった。
それは、まるで犬…大型犬みたいに見えて、俺は噴き出した。
「?どうかしましたか?」
「だってお前…くくっ。そんなナリしてても、やっぱり子供だな」
「…ンだよ、それ…」
ふて腐れたように呟いて、プイッと顔を逸らす神楽。
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