猛獣スチューデント4

3/7
前へ
/177ページ
次へ
自転車でいつもの通勤路を走る。いつもの景色に、いつもはいない神楽がいる。 あの神楽がこんな早い時間に登校してくるなんて、先生達驚くだろうなぁ…。 健康的に自転車に乗ってる姿も想像出来ないし。 風に流れる黒髪。清々しい表情。 どこから見てもカッコいいんだよ…同じ男として自分が哀れになるくらい。 パチッと目が合って、神楽がフワリと笑う。 うっわ…!!なんて顔するんだ!! 「何?また見惚れてるんですか?」 「『また』っ…!?だ、誰が見惚れてなんかいるか!!」 「ふーん…まぁいいですけど。気持ちいい道ですね」 「あぁ。俺、ここ好きなんだ。並木の間を通る坂道…風がさ、気持ちよくて」 自然と顔が弛む俺を、神楽が優しく見つめる。 驚くほどに、今この状態に違和感を感じない。 いつもの風景ではないのに、心臓はうるさいままで…。 「先生が好きなら俺も好きになれますね」 そう言って神楽は前を見据えた。学校では見れない顔に、一喜一憂してる自分がいる。 こんな感情…知らない。 紛らわすように、俺はペダルを強く蹴った。 「生徒用駐輪場はあっちだろ」 「待っててくれます?」 「はぁっ!!?」 「俺が停めて戻ってくるの、ここで」 「それで、どうするんだよ?」 「一緒に教師用駐輪場に行きます」 それって…もしかして、と思うけど…。 「…なんで?」 「離れたくないからです」 やっぱりそうなのか…。 俺がうなだれると、顎に神楽の人差し指がかかる。 クイッと顔が上に向けられたかと思うと、神楽の唇がチョンと唇に触れた。 「!!…おまッ…!?」 「約束ですよ?それじゃ」 自転車に跨がると、神楽は駐輪場に走っていく。 口を押さえて、俺は後ろ姿を見送った。 何が『約束』だ!!約束ってのは相手の同意があってこそであってだなぁ…っ!! …なんで俺も言われた通りに待ってんだよ!? 動かない身体。神楽なんか気にせず、先に行くことだって出来るはずなのに。 駐輪場から駆け足で戻ってきた神楽は、俺を見てパッと笑顔になった。 それは、まるで犬…大型犬みたいに見えて、俺は噴き出した。 「?どうかしましたか?」 「だってお前…くくっ。そんなナリしてても、やっぱり子供だな」 「…ンだよ、それ…」 ふて腐れたように呟いて、プイッと顔を逸らす神楽。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

528人が本棚に入れています
本棚に追加