猛獣スチューデント1

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本日快晴―素晴らしいことだ。 初夏の新緑は鮮やかで、自転車で下る坂道では風が心地いい。 毎日通る通勤路の筈なのに、こういう季節の移り変わりを感じられる道が本当に好きだ。 家から自転車で片道十五分。多分これ以上は疲れるだろうし、これ以下なら少し物足りないと思うだろう。 見慣れた制服の学生達の間を自転車で通ると、俺に気付いた男子学生達が元気に声を掛けてくる。 「ヒーナちゃーん!!おっはよーん♪」 「ヒナちゃん先生おはよ~♪」 清々しく挨拶を交わしてやりたいが、俺の眉間に小さく皺が刻まれる。 「…だから、そう呼ぶなっての!!」 俺の名前は谷崎 日向(たにざき ひなた)。一年目の新米高校教師だ。 二十六歳に見えないと言われる容姿と、『ヒナタ』という名前からついたアダ名は『ヒナちゃん』…。 男子校ってことだけあって男ばかりで、俺なんて私服を着ていなけりゃ生徒との区別もつかないらしい。 最近の学生って図体デカいし、学生に見えないんだよなぁ…。 親しみを込めてくれてるのか、単にナメられてるだけなのか。 とにかく俺は、男らしくないそのアダ名が好きではない。
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