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「谷崎先生っ、山科先生帰りましたか!?」
「は?えぇ、先程…どうかしましたか?」
「私、山科先生から資料借りたままだったんですが…明日の授業で使うって言ってたと思って。ああ…どうしようっ」
「なら俺届けますよ。確か山科先生電車通でしたよね?」
「え、でも…」
「俺自転車だからすぐ追いつきますし」
「そうですか?すみません!お願いしますっ」
「いえいえ。あ、俺今日も最後の戸締まりするんで、開けててくださいね」
俺は資料が入ってる大きな茶封筒を受け取ると、急いで職員室を出て行った。
駐輪場に向かうと、遠目に人影が二つ見えた。
あれは…?
その人物が誰か判明し、俺は反射的に身を隠した。
嘘だろ…ッ!?
山科先生と…神楽!!?
思わず隠れちゃったけど、ど…どうしよう…。
「―――好きなんだ」
声を張ったわけではなく、静かな口調がハッキリ耳に届く。
その単語に、時が止まったような錯覚すらした。
山科…先生…?
「ずっと好きだった。気付いてたんだろ…?」
山科先生…?何言って…?
脈打つ心臓が痛い。
「だから何だよ」
低く、俺に向ける声とは違う声で神楽が言った。
「あんたの気持ちなんて関係ない。俺は俺だ」
「誰にも渡したくない」
「俺の勝手だ」
なんだよ…この会話。
山科先生が、神楽のことをずっと好きだった…?
『ちょっと…個人的に、ね』
そう言った山科先生が脳裏にフラッシュバックした。
あれは、こういう意味…?
「話は終わりか」
神楽が歩き出す。
ヤバっ…こっち来る!?
そっと顔を出して様子を窺う。
「――――!!?」
キス…してる………!?
手から茶封筒が落ちる。ドサッと落ちた音に、二人の視線は俺に向けられた。
「ヒナ、先生…っ」
「…ぁ……」
いたたまれなくなり、俺は踵を返して走り出した。
「ヒナ先生っ!!」
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