猛獣スチューデント5

2/7
前へ
/177ページ
次へ
神楽の制止する声を無視して、俺は夢中で走る。 キスしてた…!!? 顔は見えなかったけど…あれは…あの位置は…!! 何で今俺が逃げるように走らなければいけないのか、この得体の知れない漠然とした不安みたいなものは何なのか…。 混乱する思考では、まともに考えられない。 急に腕が後ろに引かれて、走っていた俺の身体はようやく止まった。 反射的に振り返ると、そこには息を切らした神楽がいた。 「ちょっと待ってくださいって…さっきから、言ってたんですが…」 元からちゃんと規定通りに着れていなかった制服が、更に乱れている。 それだけでも俺を必死に追いかけてくれたって分かった。 ギュッと心臓が掴まれる思いだ。 追いかけてくれたことが嬉しいのに、俺の口から出た言葉は全くの逆。 「…離せよ」 「先生、どこから聞いて…さっきの見て、変に誤解なんてしてませんよね?」 「誤解ってなんだよ!?見たままなんだから、それが事実じゃねぇか!!」 「俺に何も言わせてくれないんですか」 真剣な眼差しで俺を見つめる神楽の言葉には、少し怒りを感じた。 俺の身体が強張ったことに気付き、苛ついたように神楽が髪を掻き乱す。 「すみません…あなたを怖がらせるつもりは…ただ、俺の話を聞いてほしいんです」 「山科先生とどういう関係なのかは知らないし、先生がお前を好きだろうが、俺には関係のないことだ」 自分で言って胸が痛む。 俺…惨めじゃないか…。昨日から振り回されっぱなしで…ドキドキして…。 神楽は目を見開いて俺を見る。 「ちょっ…誰が誰を好きって…っ」 「もういいからッ!俺に構うなよ!!」 これ以上、神楽と一緒に居たくない。 声聞いて、掴む腕に汗ばむくらいの体温を感じていたくない。 無理矢理神楽の手を振り払うと、俺はまた駆け出した。 「先生…っ!!」 神楽は俺を止めようと腕を伸ばすが、その足は先に進まなかった。 伸ばした腕で空を掴み、胸に引き寄せて呟く。 「……くそッ…!!」
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

528人が本棚に入れています
本棚に追加