528人が本棚に入れています
本棚に追加
神楽の制止する声を無視して、俺は夢中で走る。
キスしてた…!!?
顔は見えなかったけど…あれは…あの位置は…!!
何で今俺が逃げるように走らなければいけないのか、この得体の知れない漠然とした不安みたいなものは何なのか…。
混乱する思考では、まともに考えられない。
急に腕が後ろに引かれて、走っていた俺の身体はようやく止まった。
反射的に振り返ると、そこには息を切らした神楽がいた。
「ちょっと待ってくださいって…さっきから、言ってたんですが…」
元からちゃんと規定通りに着れていなかった制服が、更に乱れている。
それだけでも俺を必死に追いかけてくれたって分かった。
ギュッと心臓が掴まれる思いだ。
追いかけてくれたことが嬉しいのに、俺の口から出た言葉は全くの逆。
「…離せよ」
「先生、どこから聞いて…さっきの見て、変に誤解なんてしてませんよね?」
「誤解ってなんだよ!?見たままなんだから、それが事実じゃねぇか!!」
「俺に何も言わせてくれないんですか」
真剣な眼差しで俺を見つめる神楽の言葉には、少し怒りを感じた。
俺の身体が強張ったことに気付き、苛ついたように神楽が髪を掻き乱す。
「すみません…あなたを怖がらせるつもりは…ただ、俺の話を聞いてほしいんです」
「山科先生とどういう関係なのかは知らないし、先生がお前を好きだろうが、俺には関係のないことだ」
自分で言って胸が痛む。
俺…惨めじゃないか…。昨日から振り回されっぱなしで…ドキドキして…。
神楽は目を見開いて俺を見る。
「ちょっ…誰が誰を好きって…っ」
「もういいからッ!俺に構うなよ!!」
これ以上、神楽と一緒に居たくない。
声聞いて、掴む腕に汗ばむくらいの体温を感じていたくない。
無理矢理神楽の手を振り払うと、俺はまた駆け出した。
「先生…っ!!」
神楽は俺を止めようと腕を伸ばすが、その足は先に進まなかった。
伸ばした腕で空を掴み、胸に引き寄せて呟く。
「……くそッ…!!」
最初のコメントを投稿しよう!