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「おはようございます」
職員室に入ると馴染みの先生達に挨拶をしつつ、自分の席に行くと鞄を置く。
「おはようございます、谷崎先生」
「あ、おはようございます」
声に振り返ると、そこには眼鏡越しの柔らかな視線と笑顔。
山科 悠城(やましな ゆうき)。日本史を担当する、俺の先輩にあたる教師の一人だ。
分かりやすい授業と、洗練された外見。生徒からの人望も集める、俺の今最も憧れている人。
「今日も自転車で来たんですか?」
「えぇ。身体を朝から動かすと気持ちいいんで」
「はは、谷崎先生と新緑なんて、お似合いですね」
「え?」
山科先生は、俺の鞄を指差した。鞄には、いつから付いていたのか緑が鮮やかな葉っぱが一枚。
「あっ…」
「谷崎先生のイメージにピッタリって感じです」
そう言って楽しげに笑う山科先生。俺は恥ずかしくて、苦笑した。
俺が新緑の葉っぱなら…山科先生は白い百合だな。
想像して、あまりのハマりように感心した。
「では、職員会議を始めます」
そんな声にハッとして、俺は慌てて立ち上がり、他の先生達と同じように頭を下げて椅子に座る。
いけない、いけない…仕事に集中しないとな。
俺は頭を切り替えて、言われるままに連絡事項をメモしていった。
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