小さなこいのぼり

2/10
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
   むかしむかし、あるところに、小さな男の子とおかあさんが二人きりで暮らしていました。  今日は、五月五日のこどもの日で、家にカブトをかざったり、こいのぼりをあげたりと、世間はこどもの日を楽しんでいました。  だけど、男の子の家には、カブトもこいのぼりもありません。  数日前、男の子は、お仕事から帰ってきたおかあさんに聞きました。 「おかあさん、ぼくの家にはカブトはないの? こいのぼりはないの?」  狭い家には、こいのぼりもカブトも飾れるスペースはありません。  おかあさんは男の子の頭を撫でると、困ったような顔をし、 「……ぼうや、ごめんね。うちは貧乏だからカブトもこいのぼりも買うお金がないのよ」  と、悲しそうな声で謝りました。  男の子は、何かものが欲しいというたびに、おかあさんから聞かされるこの言葉に、それ以上は何もいえませんでした。  何より、いつもニコニコしているおかあさんが、この時だけ悲しそうに謝るのを見る事が、男の子にはたまらなかったからです。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!