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きらっと閃いた銀色の刃を身を屈めてかわした。横に払われた刃が頭上を空気を切る音とともに過ぎ去り、背中を嫌な汗が伝った。
父が見ている。無様な姿は許されない、とカーリン・イマニモフはともすれば対戦相手のように後先考えずに斬りかかりたくなる自分をそう戒めていた。
自分が華麗に勝たなければ、イマニモフの家はまた笑いものにされる。
かといって、イマニモフ家に代々伝わる剣を振るえば、イマニモフの家は卑怯者呼ばわりされるだろう。
イマニモフの剣は暗殺の為にある。
その為か、イマニモフの家の者が使う剣はいわゆる『普通』の貴族の使う剣とは一線を画した速度を持つ。それ故にイマニモフの剣を使ってはいくら刃引きをしてあったとしても、その剣をうければただでは済まない。
それ故にカーリンは自分の剣を使うことを避けようとしていた。
しかし、それで負けては父のラムネスが何を言われるか分からない。
本気を出せば卑怯だと蔑まれ、本気を出さずに戦えば生意気だと罵られる。
イマニモフとその部下達が手を汚しているからこそ今の平穏な生活があるのにも関わらず、彼らはただフェルンティンが血塗られた歴史を持つからという理由だけで、イマニモフとその部下達の一族を蔑む。
それは国民の支持がなければ凋落するしかない貴族の家の事情しかり、人を殺すことを悪とする一方で、異端狩りは歓迎するという矛盾に気づけない国民の無能しかり。
大振りの剣の後には大きな隙が生じる。
一撃必殺の剣を放つのならそれなりの準備が必要だ。むやみやたらに剣を振るえば良いわけではないのだ。大きく開いた脇の下に剣の柄頭を打ち付けるようにした。
相手の剣が音を立てて地面に落ち、あまりの痛みに彼が地面に倒れ込んだ。
闘技場全体を不満の声の嵐が渦巻いた。
慣れ親しんだ痛みが胸に走るのを無視して、カーリンは剣を手に闘技場を後にする一歩を踏み出した。
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