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「お疲れ」
と声をかけてきたのはロイ・フォーンスタングだ。
フォーンスタング家とイマニモフ家とは親類になる。しかし、それは遥か昔の話で、今ではその血の繋がりはひどく薄いものになり、親戚の子というよりは、親友といった方があてはまった。
「おまえ、今日は勉強会なんじゃないのか?」
フォーンスタング家は文官の家だ。ロイもそれなり以上に剣を使えるため、狭い講堂に押し込められて勉学に励むのは嫌いらしい。
「良いんだよ。どうせ今までにしたことの復習だ」
とはいえ、さすがは天才を数多く輩出するフォーンスタングの家の子で、学んだ内容は一度で覚えてしまい、ファス1の天才の呼び名を欲しいままにしているのもロイだった。
「で、イマヌエルはどうした?」
「ああ。アルバの奴にこっぴどくやられて塞ぎ込んでる」
「またか」
イマヌエル・オルレイはファスの名門オルレイ家の長男だ。
優しい性格と現頭首のラミドレの開放的な教育が相まって、オルレイ史上類をみない落ちこぼれと言われている。
一方はファス1の天才。もう一方は後ろめたい背景さえなければファス1の剣の使い手の名声を得ていた、と嘆かれるほどの剣の使い手。そのどちらにも当てはまらず、強いて言うならその中途半端さが醸し出す柔らかで、壊れそうな雰囲気が貴族の婦女の母性本能を刺激するのか、ひどく女性に人気である。が、それもイマヌエルには同情にしかうつっていないのだろう。慰めようにも慰められない。
ロイはそんなイマヌエルを伴って貴族の娘にちょっかいを出しに行っている。それがロイなりの優しさなのは2人は理解している。
それでもカーリンはロイのようにはなれないと思う。カーリンは、暗殺の剣にのみ通じていれば良かった。しかし、彼の頭脳は彼自身は自覚していないが、ロイのそれよりも優れていると陰で囁かれている。
事実、幼少の教育の過程ではイマニモフ家の子がフォーンスタングの子を頭脳で負かしては面白くないという理由で、点引きされていたものの、本来ならカーリンがロイに勝っていた時期があった。それは後にカーリンをロイと同じ大学に進学させようとしたある教授から聞いた話だが、カーリンは丁重にその話を断った。
幼少の学校を卒業して以来、学問に触れていないというのが建前上の理由だが、結局はイマニモフの血が大学への進学を阻んだのだ。
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