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「さて、イマヌエルを探しに行こうぜ」
と言ったロイにカーリンは物思いから脱した。
「しけた顔してるなよ。お前は強いんだからさ」
ロイの端正な顔が太陽を背に影になっていたが、その目の光だけはカーリンにも見えた。
いつもそうだった。
訳の分からないまま親の言葉を手放しでうけ、意味を咀嚼する能も無いくせに「汚れた血」だの「異端の狩人」だなどと蔑まれ、仲間外れにされ、泣いていた幼い自分を救ってくれたのは、この光だった。
その傍らにはいつも自分と似て口下手なイマヌエルの優しげな笑みがあった。
「また気になる娘でも見つけたのか?」
と尋ねたカーリンに「今度こそは口説き落としてやるぜ」と良家の長男には甚だ相応しくない言葉でロイが応じた。
「物好きめ」とカーリンが返せば「その年で女の匂いすらしないお前の方がよっぽど物好きだ」とロイが憎まれ口を叩く。
確かに、3つ下のロイが女を知っているのに自分が知らないというのはおかしな話なのかもしれない。
もっとも、ロイのように誰もが羨む血を自分は継いでいない。
が、それは言い訳に過ぎない。いくら汚れた血に愛しい人を引き込みたくはない、と偉そうに言ってみたところで結局は以前ロイに指摘されたように「自信が無いだけ」だ。
イマニモフの名を出しただけで避けられるのではないか、傷つけられるのではないか、といつも怖れている。
「ま、そんなこと言ったらイマヌエルはもっと物好きか」
とロイが気楽な声で言った。
「あんなに女に好かれてるのに興味を持たないからか?」
とカーリンが応じると「あいつ、女に囲まれてるから女になっちまったんじゃないだろうな」とこれまたどこで覚えて来たのか、貴族の長男には相応しくない毒をさらりとロイは吐いた。それが彼の魅力である。
将来を約束された家に生まれ、実力でそれを確実なものにしても尚、自らの生まれを嫌うかのようにらしくないことを繰り返す。
それがロイらしさであり、力は足りなくとも日々努力し、諦めようとしないのがイマヌエルらしさなのだ。だから、2人は特別何かをしている訳でもないのに輝いている。
ならば、自分らしさとはなんだ?
「ま、イマヌエルが居なくても構わないんだがな」
と言ったロイに「え?」とカーリンは生返事を返した。
「あいつが居た方が場が和むから居て欲しかったが、まあ良い。今回の主役はお前だ」
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