5人が本棚に入れています
本棚に追加
否定すればロイザに失礼だ。が、肯定すれば隣でにやにやしているロイにからかわれることになる。
「ま、それが目的だったんだろうがね」
と言って立ち上がったバラフに倣うようにしてロイも立ち上がる。
「どうした?」
と尋ねたカーリンに「じゃあな」と目を合わせようともせずロイが立ち上がる。その口許に笑みが浮かんでいるのを見たカーリンは、これから訪れる2人だけの時間に、気を重くした。
バラフ・フアマと別れた後、ロイ・フォーンスタングは手持ちぶさたな我が身をかえりみて、憂鬱になった。
容姿はファスの女に人気の鋭さを持っている。
彫りは深い方だが、それは嫌みな程ではなく、高い鼻と知性をたたえた深い緑色の目は、女の心を掴むのにはもってこいだ。
髪の色は深い黒で、僅かにうねりがある。そのうねりをそのままにすることで、作為性を消しているつもりだ。
体格は悪くはない。あえて表現するなら中肉中背。いたって普通だ。学者の家の子らしく白い肌が、そのありきたりな体格すら特別なものに見せていることもロイは知っていた。
知性は抜群で、剣が全くできない訳ではない。
しかし、カーリンには負けている、とロイは常々思っていた。
彼は意図的に学問から離れただけで、仮に彼が今も学問を続けていたら自分は勝てないだろう、とロイは思っていた。
剣にしても、自分がいくら努力したところで彼には及ばなかった。
唯一勝っているとすれば家柄と、そこから来る気品が美しく見せる容姿で、そこまで思考がたどり着くに至って、いつもロイは自己嫌悪に陥る。
幼い日、カーリンを助けたその時から古い因襲を忌み嫌うような行動を続けてきた。
しかし、それはカーリンを同じ土俵に引っ張り出し、そこで比較することでカーリンに劣る自分のせめてもの慰めにしていたのではないか?
自身もまたカーリンを馬鹿にしてしまっては、自分の立場が無いではないか。
「難しい顔」
と涼しげな声がかけられ、ロイはそちらに顔を向けた。
あどけなさの残るイマヌエル・オルレイの丸い顔と対照的にすらりとした女の立ち姿が並んでいる様をいつも美しいとロイは感じる。「ほっとけ」
とだけ答え、そちらに向かう足を踏み出した。
ウルマ・ロイエンはくりくりとした目でロイが近づくのを待っていた。
最初のコメントを投稿しよう!