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予想した通りのことをイマヌエルは言った。相変わらず読みやすい彼に不思議と安心をする一方で、これからイマヌエルが歩む事になる道を考えれば、それは余りにも甘過ぎる。
このままイマヌエルが『大人』になれば、どこかで必ず命を落とす。戦場か、或いは政治の舞台の一画で。自分もカーリンもいずれは『大人』になり、いずれこのような時間も終わるだろう。
会える時間は減るし、どこかですれ違ったとしても、気楽に言葉を交わせなくなる。
オルレイ、フォーンスタング、イマニモフの三家の力は余りにも強く、この三家が共謀すれば、政権の転覆すらも可能だ。
その為に必要な手札は揃っている。
ファスの騎士がオルレイにつかずともイマニモフの家が代々長をつとめるフェルンティンは三家につくだろう。
彼らは精鋭の騎士であると同時に、優れた暗殺者でもある。そして、フォーンスタングの握る世界を転覆させかねない秘密。
オルレイの家は実質必要ではないが、全てが終わった後に使いようがある。
そんな想定が遠い昔からフォーンスタングの人間により続けられて来た。
自分の代にその想定を現実にするつもりはないが、そうせざるを得ない状況が起こらないとは限らない。
事実、数年前から王宮に出入りするようになった枢機卿の一人サリバン・オーレミは国王を懐柔しようとあらゆる手を使っているし、既に王妃と王子は彼の掌中にあるようなものだと父は言っていた。
所詮王室の人間など篭の鳥に過ぎない、とロイは思う。
それは危険な考えただ、とカーリンは言った。
俺にお前を殺させるな、とも彼は言った。
「意気地の無い奴だ」
と言ったロイにイマヌエルがうなだれた。
「そこが好きな癖に」と茶化したウルマに「馬鹿いえ」と言ってしまったのは本音だからだ。
「図星だ~」とからかう声を出したウルマに乱暴に飛びかかったロイに「ちょっとぉ」とウルマが変な声を出す。
「昼間から変な声を出すな」と言ったロイに「何考えちゃってんの?」と耳まで赤くしてウルマが言えば、たまらずイマヌエルが吹き出した。
そこに2人分の笑い声が重なった。
それぞれの未来に重く被さる不安を、一時であっても忘れようとするかのように、3人は腹の底から笑った。
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