一章

4/10
前へ
/60ページ
次へ
「…あの」 話しかけられた。 「へ?あ、はいはい、何でしょうか?」 思わず敬語を使う。 「…このことは…その、先生に黙ってて欲しいのですが…」 このこと? と、口で言いかけ時点で思い至る。 「あぁ、プールで浮いてたことか?」 軽く頷く。 「別に、言いやしない」 「…ありがとうございます」 どうも話し方に変な間がある人のようだ。 「何でプールに?」 「…浮きたかったから?」 疑問形で返さんで欲しい。 「……まぁ、いいか」 「…?」 人には他人に言えないことの一つや二つ、あるに違いない。 ならば、これ以上彼女を問いただすのもどうかと思う。 それに、俺はプライバシーを尊重する人間だ。 ――ぶっちゃけると面倒なことを避けたいだけだが… 「んじゃ、まぁ俺は用事済まして帰るから 風邪引かないようにな、えっと…かしわ…さん?」 「…はい、気をつけます」 それだけいうと俺は部室に向かった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加