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「まだ40分近くあるだろ?
浮いてるだけなら十分な時間だと思うんだが……」
「…私は少しでも長くプールに入っていたいんです…鍵、開けてください」
「……わかったよ」
彼女と口で争うのも悪くはないのだが、今は言い合う気はない。
プールに入れることが彼女には重要だろう。
俺は後輩に促されるままに鍵を開けた。
彼女はそそくさと、部室と塀との間‘彼女専用更衣室’に向かって行った。
が……
「柏」
呼び止める。
「…なんですか?」
無表情な顔がこちらに振り向いた。
「今日からは更衣室、使えるぞ」
左手で更衣室を指し、右手で鍵を見せる。
「…大丈夫です…もう着てますから」
「……あぁ、さようで……」
何処で着たんだよ……
そんなツッコミは、酷く今更なのかもしれない。
言うことの無くなった俺は、プールサイドで待つことにした。
プールでは、水面が涼しげに揺れている。
備え付けベンチに座った俺は、一向に読み進められない文庫を開いて待つことにする。
原因は待ち時間しか読まないからなのだが……
―一1分と待たず、水着になった後輩がプールサイドに上がってきた。
いつも通りの小学校指定水着に大きめの浮輪を持った彼女は、水につかり浮輪の上によじ登っている。
俺はその光景を眺め、談笑を交わしつつ、昨日のことについて思い出して自分の情けなさにため息をついていたわけだった。
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