一章

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それは俺が高校二年生で、五月の半ば、昼休みのことだった。 俺は水泳部の部室に向かっていた。 何故かといえば、部室に置いてある体育シューズが五限目に必要だから、である。 しかし、朝と放課後以外に部室に入ることは原則として禁止とされており、緊急の場合は顧問の許可がいる。 よって、休み時間に顧問に許可を取って鍵を借り、時間に余裕のある昼休みに部室へ向かったのだ。 教室を出て一階に下り、部室棟を横切って体育館の裏を通った。 その先にプールと部室はある。 約一年、毎日のように通ったルート。 そして、体育館の裏をぬければそこはいつも通りの光景がある…はずだった。 その日、プールにはいつもと異なる光景があった。 水は入れたばかりで、底を隈なくまで見ることが出来るプール。 その水面に『それ』は浮いていた。 プール横のフェンスから覗いただけでは、その黒い物が何かは分からない。 「(傘でも入ってんのか?)」 だったら水から上げておかねば、と思うのは自然なことであろう。 誰だって自分が浸かる水が汚いのは不快なのだ。 入口の鍵を開け、部室より先にプールサイドに上がる。 黒い物体に近付くにつれ、それがはっきりと見えてくる。 それは―― 女の子、だった。
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