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病室を出ると、丈太郎さんが
待っていてくれた。
片手を挨拶代わりに上げて
近寄って来る。
『何で最初に言ってくれなかったんだ』とか言いたい事がたくさんあったのに、驚きが大き過ぎて、何も言う気になれない。
「今日は家に帰るだろ?下で車待たせてるから、帰ろうぜ。明日から忙しいぞ」
バンッ!と、廊下に響くぐらいに大きな音を立てて背中を叩かれた。
その反動で俺は前に倒れそうになってしまう。
「あっぶな…!丈太郎さん、俺になんか恨みでもあるんですか?」
「ん~詩子とられたからなぁ…子供まで作っちまうし。あ、忘れてたコレ、夢子に頼んで持って来てもらった入院セット」
胸に当てるように突き出されたバックを受け取りながら、思った。
丈太郎さん、やっぱり詩子のこと好きだったんだ。本人の口から聞いて複雑な気分……
その気分が顔に出てたのか、頬をつねられ、そのまま持ち上げられた。
……痛いんですけど。
「馬鹿か、お前は。父親になったくせにこのぐらい気にするなよ……まだ、実感ないか」
「そうですよ、まだフワフワしてます。本当に、俺が…父親?ははっ…父親って何するんですか?」
俺は父親を知らない。
そんな俺が
父親になっていいのだろうか。
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