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産まれたのは男の子だった。
まだどちら似なのか分からない小さな小さな我が子。
少し小さ過ぎて、暫く新生児室にいることになった。
何がそんなにキミを泣かせるのか、全身真っ赤にして泣いている。
「まさか八住君が来てるとは思わなかったなぁ」
「俺だって…まさか詩子が妊娠してたなんて知らなかったぞ」
「言うつもりなかったから」
あれから
病室に戻ってきた詩子。
少し落ち着いた今、二人きりで話しをさせて貰っている。
「何故?」
「何故って…修業の邪魔したくなかったもの。行った後暫くして妊娠が分かって、嬉しかったのと同時に一人で頑張るって決心したのよ」
詩子から強い意志が伺える。
いつもの詩子の顔じゃない。
もう、母親の顔なんだと気付いた。
「陣痛があまりにも酷かったから、大騒ぎしちゃったのよね…私…心配した皆が、八住君に連絡しちゃったんだね」
「驚いたよ、全く」
お互いを求めるように、手が重なり合った。握った手の温もりが酷く懐かしい。
詩子は握り返しながら、俺をじっと見つめてきた。
「八住君が自分で帰って来ると決めるまで、伝えるつもりはなかったの。ちゃんと納得いくまで学んで欲しかったから……子供の存在を知って、これから集中して学んでいける?」
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